Particle-PLUS コラム - プラズマモデリング(連載) - 第9回

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前回はBoltzmannの衝突項(衝突積分)の一般的な表式 \begin{align} \left(\frac{\delta f_{s}}{\delta t}\right)_{C} = \iint \left( I^{\prime}_{ss^{\prime}} v^{\prime}_{ss^{\prime}} f^{\prime}_{s}f^{\prime}_{s^{\prime}}\mathrm{d}\vec{v}_{s^{\prime}}^{\prime} - I_{ss^{\prime}} v_{ss^{\prime}} f_{s}f_{s^{\prime}}\mathrm{d}\vec{v}_{s^{\prime}} \right) \mathrm{d}\varOmega \label{eq_collision_integral} \end{align} を書き下しました. 今回はプラズマの流体方程式における衝突項の具体例として 弾性散乱における運動量交換項を導出してみましょう.

3.2. 例:弾性衝突の場合(運動量移行衝突周波数) Ex. inelastic collision (momentum-transfer collision frequency)

ここからは特に弾性散乱(エネルギーが保存され ${v}^{\prime}_{ss^{\prime}}={v}_{ss^{\prime}}$ である)の場合を考えましょう. このとき,Liouvilleの定理より,位相空間中の微小体積は一定ですので $\mathrm{d}\vec{v}^{\prime}_{s^{\prime}}=\mathrm{d}\vec{v}_{s^{\prime}}$ が成り立ちます. したがって,弾性散乱の場合におけるBoltzmann方程式の衝突項が \begin{align} \left(\frac{\delta f_{s}}{\delta t}\right)_{C} = \iint I_{ss^{\prime}} {v}_{ss^{\prime}} \left( f^{\prime}_{s}f^{\prime}_{s^{\prime}} - f_{s}f_{s^{\prime}} \right) \mathrm{d}\varOmega \mathrm{d}\vec{v}_{s^{\prime}} \label{eq_collision_integral_elastic} \end{align} のように書けることが分かります.

さて,速度 $\vec{v}_{s}$ に関する一般の関数 $\psi_{s}=\psi(\vec{v}_{s})$ に関する速度モーメントは \begin{align*} \left\langle\psi_{s}\left(\frac{\delta f_{s}}{\delta t}\right)_{C}\right\rangle = \iiint \psi_{s} I_{ss^{\prime}} {v}_{ss^{\prime}} \left( f^{\prime}_{s}f^{\prime}_{s^{\prime}} - f_{s}f_{s^{\prime}} \right) \mathrm{d}\varOmega \mathrm{d}\vec{v}_{s^{\prime}} \mathrm{d}\vec{v}_{s} \end{align*} です. 右辺第一項を計算するために,積分変数を $\mathrm{d}\vec{v}_{s^{\prime}}\mathrm{d}\vec{v}_{s}\to\mathrm{d}\vec{v}^{\prime}_{s^{\prime}}\mathrm{d}\vec{v}^{\prime}_{s}$ としてみます(Liouvilleの定理より). また,入射粒子が衝突により交換する速度を $\Delta\vec{v}_{s}$ と書くことにして $\vec{v}_{s}=\vec{v}^{\prime}_{s}-\Delta\vec{v}_{s}$ のように変数変換すると,上式は \begin{align*} \psi_{s} = \psi(\vec{v}_{s}) = \psi(\vec{v}^{\prime}_{s}-\Delta\vec{v}_{s}) = \psi(\vec{v}^{\prime}_{s}) - \frac{\partial \psi(\vec{v}^{\prime}_{s})}{\partial {\vec{v}^{\prime}_{s}}} \cdot\Delta\vec{v}_{s} + O((\Delta\vec{v}_{s})^{2}) \end{align*} のように展開できます. ($\partial/\partial \vec{v}_{s}^{\prime}$ は1.1節 で導入したベクトル微分演算子です.) 以上より,先ほどの速度モーメントの右辺第一項の被積分関数は全て積分変数である $\vec{v}^{\prime}_{s}$ と $\vec{v}^{\prime}_{s^{\prime}}$ を使って表せました. したがって,再度 $\vec{v}^{\prime}_{s}\to\vec{v}_{s}$, $\vec{v}^{\prime}_{s^{\prime}}\to\vec{v}_{s^{\prime}}$ としても問題ありません. 以上をまとめると, \begin{align*} \left\langle\psi_{s}\left(\frac{\delta f_{s}}{\delta t}\right)_{C}\right\rangle \simeq - \iiint \frac{\partial \psi(\vec{v}_{s})}{\partial {\vec{v}^{\prime}_{s}}} \cdot\Delta\vec{v}_{s} I_{ss^{\prime}} {v}_{ss^{\prime}} f_{s}f_{s^{\prime}} \mathrm{d}\varOmega \mathrm{d}\vec{v}_{s^{\prime}} \mathrm{d}\vec{v}_{s} \end{align*} となります.


さて,$\psi_{s}=1$ のとき,上記の速度モーメントは弾性散乱による生成項 $S_{s}$ (1.4節参照)と等しく,その値は $0$ です. これは,弾性散乱では粒子増減はないので当然の帰結と言えます.


次に,$\psi_{s}=m_{s}\vec{v}_{s}$ とすると,これは弾性散乱の運動量交換項 $\vec{\mathcal{K}}_{ss^{\prime}}$ (1.5節参照) \begin{align*} \vec{\mathcal{K}}_{ss^{\prime}} = - \iiint m_{s}\Delta\vec{v}_{s} I_{ss^{\prime}} {v}_{ss^{\prime}} f_{s}f_{s^{\prime}} \mathrm{d}\varOmega \mathrm{d}\vec{v}_{s^{\prime}} \mathrm{d}\vec{v}_{s} \end{align*} です. ここで,${\vec{v}}_{ss^{\prime}} + \Delta{\vec{v}}_{ss^{\prime}} = {\vec{v}}^{\prime}_{ss^{\prime}}$ と書くことにすると, 運動量保存則から $m_{s}\Delta\vec{v}_{s} = \tilde{m}_{ss^{\prime}}\Delta{\vec{v}}_{ss^{\prime}}$ が分かります. ただし,$\tilde{m}_{ss^{\prime}}$ は2.4.1項で導入した換算質量です. したがって, \begin{align*} \vec{\mathcal{K}}_{ss^{\prime}} & = - \iiint \tilde{m}_{ss^{\prime}}\Delta{\vec{v}}_{ss^{\prime}} I_{ss^{\prime}} {v}_{ss^{\prime}} f_{s}f_{s^{\prime}} \mathrm{d}\varOmega \mathrm{d}\vec{v}_{s^{\prime}} \mathrm{d}\vec{v}_{s} \\ & = - \iiint \tilde{m}_{ss^{\prime}}\frac{\Delta{\vec{v}}_{ss^{\prime}}}{\Delta{v}_{ss^{\prime}}} \frac{\Delta{v}_{ss^{\prime}}}{{v}_{ss^{\prime}}}{v}_{ss^{\prime}} I_{ss^{\prime}} {v}_{ss^{\prime}} f_{s}f_{s^{\prime}} \mathrm{d}\varOmega \mathrm{d}\vec{v}_{s^{\prime}} \mathrm{d}\vec{v}_{s} \end{align*} となります.

ここで,$\Delta{\vec{v}}_{ss^{\prime}}/ \Delta{v}_{ss^{\prime}}$ は衝突による相対速度の変化方向を向いた単位ベクトルであり, 上式から散乱方向に関わる部分を抜き出すと \begin{align*} \int \frac{\Delta{\vec{v}}_{ss^{\prime}}}{\Delta{v}_{ss^{\prime}}} I_{ss^{\prime}} \mathrm{d}\varOmega = \iint \frac{\Delta{\vec{v}}_{ss^{\prime}}}{\Delta{v}_{ss^{\prime}}} b \mathrm{d}b\mathrm{d}\phi \end{align*} となります. ($b$ および $\phi$ は前回導入した衝突パラメータと散乱方位角です.) ここで,ベクトル $\Delta{\vec{v}}_{ss^{\prime}}$ について相対速度 $\vec{v}_{ss^{\prime}}$ に平行な成分 $\vec{v}_{ss^{\prime}}/v_{ss^{\prime}}$ と垂直な成分 $\vec{v}_{ss^{\prime}}^{\ast}/v_{ss^{\prime}}$ に分解して,それらの線形結合として \begin{align*} \Delta{\vec{v}}_{ss^{\prime}} = c_{1} \frac{\vec{v}_{ss^{\prime}}}{v_{ss^{\prime}}} + c_{2} \frac{\vec{v}_{ss^{\prime}}^{\ast}}{v_{ss^{\prime}}} \end{align*} のように表すことにします. ($c_{1}$,$c_{2}$ は結合の係数です.) このとき,先ほどの積分は $\vec{v}_{ss^{\prime}}$ に直交する成分である方位角 $\phi$ に関する積分を含みますので, 積分の結果として残るのは $\vec{v}_{ss^{\prime}}$ 平行成分だけであることが分かります. すなわち, \begin{align*} \iint \frac{\Delta{\vec{v}}_{ss^{\prime}}}{\Delta{v}_{ss^{\prime}}} b \mathrm{d}b\mathrm{d}\phi = \int \frac{\vec{v}_{ss^{\prime}}}{v_{ss^{\prime}}} I_{ss^{\prime}} \mathrm{d}\varOmega \end{align*} と見なすことができます. ここで,係数 $c_{1}$ については微分断面積 $I_{ss^{\prime}}$ に吸収しました.

一方,$\Delta v_{ss^{\prime}}/v_{ss^{\prime}}$ は衝突する粒子間で移行する運動量の割合を示しています. したがって,運動量移行断面積(momentum-transfer cross section)は \begin{align} \sigma_{\mathrm{m}ss^{\prime}} \equiv \int \frac{\Delta{v}_{ss^{\prime}}}{v_{ss^{\prime}}}I_{ss^{\prime}} \mathrm{d}\varOmega \label{eq_total_momentum_CS} \end{align} と定義することができます.

以上より, \begin{align} \vec{\mathcal{K}}_{ss^{\prime}} & = - \iint \tilde{m}_{ss^{\prime}}{\vec{v}}_{ss^{\prime}} \sigma_{\mathrm{m}ss^{\prime}}v_{ss^{\prime}} f_{s}f_{s^{\prime}} \mathrm{d}\vec{v}_{s^{\prime}} \mathrm{d}\vec{v}_{s} \nonumber\\ & = - \tilde{m}_{ss^{\prime}} n_{s}n_{s^{\prime}} \overline{\sigma_{\mathrm{m}ss^{\prime}}v_{ss^{\prime}}{\vec{v}}_{ss^{\prime}}} \nonumber\\ & \simeq \tilde{m}_{ss^{\prime}}n_{s}\nu_{\mathrm{m}ss^{\prime}}\left(\vec{u}_{s^{\prime}}-\vec{u}_{s}\right) \label{eq_definition_K_erastic} \end{align} であることが分かります*1. ここで $\overline{X}$ は,物理量 $X$ に対する,散乱に関する全速度空間におけるモーメント量を表します. また,$\nu_{\mathrm{m}ss^{\prime}}$ は2.4.1項で導入した運動量移行衝突周波数であり, \begin{align} \nu_{\mathrm{m}ss^{\prime}} \equiv n_{s^{\prime}}\overline{\sigma_{\mathrm{m}ss^{\prime}}v_{ss^{\prime}}} \label{eq_momentum_transfer_frequency} \end{align} で定義されます. なお,最後の等式がイコールではなく「ほとんど等しい($\simeq$)」のは 相対速度 ${\vec{v}}_{ss^{\prime}}$ と断面積 $\sigma_{\mathrm{m}ss^{\prime}}$ の共分散を無視できるものとしたからです.


$\psi_{s} = (1/2)m_{s}\vec{v}_{s}^{2}$ とすれば,上記と同様の方法 によりエネルギー交換項 $\mathcal{H}_{ss^{\prime}}$ の表式を得られますが,本コラムではその計算は行いません. 興味がある方はぜひ計算にチャレンジしてみてください*2



*1 この運動量転移項の表式をKrookの衝突演算子と呼ぶこともあります.

*2 ヒント:$\Delta\vec{v}_{s}$ の2次の項まで考える必要があります. 運動量遷移項と合わせるとLandauの方程式が構成されます.

3.3. 衝突断面積と衝突周波数 Cross-section and collision frequency

式(\ref{eq_momentum_transfer_frequency})に代表される衝突断面積 $\sigma_{ss^{\prime}}$ と衝突周波数 $\nu_{ss^{\prime}}$ の間の関係について見ておきましょう.

ある微小空間 $\mathrm{d}\vec{x}$ において密度 $n_{s^{\prime}}$ で一様に分布する粒子群 $s^{\prime}$ に向かって,相対流束 ${\vec{\varGamma}}_{ss^{\prime}}=n_{s}\overline{{\vec{v}}_{ss^{\prime}}}$ で粒子群 $s$ が入射してきたとします. 粒子群 $s$ は時間 $\mathrm{d} t$ の間に相対距離 $\mathrm{d} l \equiv \overline{{v}_{ss^{\prime}}}\mathrm{d} t$ だけ進みますが, その間に一部の粒子は散乱されて状態が変化します(弾性衝突により運動量を交換するだけかもしれませんし, 粒子種自体が変化するかもしれません). このときの,入射流束に対する(同じ状態の)流束の変化分を $\mathrm{d}{\vec{\varGamma}}_{ss^{\prime}}$ と書くことにします. また,個々の粒子 $s$ と $s^{\prime}$ が何らかの散乱をするときの散乱断面積を $\sigma_{ss^{\prime}}$ とすると, 単位入射面積当たり $n_{s^{\prime}}\overline{\sigma_{ss^{\prime}}\mathrm{d} l}$ 個の粒子 $s^{\prime}$ が(同じ数の)粒子 $s$ と散乱することが分かります. 流束の変化量は明らかに入射粒子数(密度)と衝突回数に比例するため, \begin{align*} \mathrm{d}{\vec{\varGamma}}_{ss^{\prime}} = - n_{s^{\prime}}\overline{\sigma_{ss^{\prime}}\mathrm{d} l} \vec{\varGamma}_{ss^{\prime}} = - n_{s^{\prime}}\overline{\sigma_{ss^{\prime}}{v}_{ss^{\prime}}}\mathrm{d} t \vec{\varGamma}_{ss^{\prime}} \end{align*} です. 負符号は,散乱により入射粒子と同じ状態の粒子は減少することを意味します. これを粒子の直進距離$l$または時間$t$について解くと, \begin{align*} {\vec{\varGamma}}_{ss^{\prime}} & = {\vec{\varGamma}}_{0ss^{\prime}} \mathrm{e}^{-n_{s^{\prime}}\overline{\sigma_{ss^{\prime}}}l\phantom{{v}_{ss^{\prime}}}} \equiv {\vec{\varGamma}}_{0ss^{\prime}} \mathrm{e}^{-l/\lambda_{ss^{\prime}}} \\ & = {\vec{\varGamma}}_{0ss^{\prime}} \mathrm{e}^{-n_{s^{\prime}}\overline{\sigma_{ss^{\prime}}{v}_{ss^{\prime}}}t} \equiv {\vec{\varGamma}}_{0ss^{\prime}} \mathrm{e}^{-t/\tau_{ss^{\prime}}} \end{align*} となります. ここで, \begin{align} \lambda_{ss^{\prime}} & = \frac{1}{n_{s^{\prime}}\overline{\sigma_{ss^{\prime}}}}, \label{eq_mean_free_path} \\ \tau_{ss^{\prime}} & = \frac{1}{n_{s^{\prime}}\overline{\sigma_{ss^{\prime}}{v}_{ss^{\prime}}}} \label{eq_mean_free_time} \end{align} は,それぞれ平均自由行程と平均自由時間です. 衝突周波数は平均自由時間の逆数 \begin{align} \nu_{ss^{\prime}} = n_{s^{\prime}}\overline{\sigma_{ss^{\prime}}{v}_{ss^{\prime}}} \label{eq_collision_freq} \end{align} として定義されます.

第9回まとめ

第9回では衝突断面積の具体例として,弾性衝突における運動量移行断面積を計算してみました. また,それと合わせて輸送パラメータの一つである衝突周波数についても解説しました. 次回は,流体モデルによるプラズマシミュレーションにおいて輸送パラメータを具体的に決定する いくつかの手法について解説したいと思います.

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著者プロフィール
  上野 崚一郎 | 博士(理学)
1991年 広島県生まれ
2019年 ウェーブフロント入社
2019年 広島大学大学院理学研究科 博士後期課程修了

学生時代は数値シミュレーションを使った素粒子論(格子ゲージ理論)の研究に従事. 入社後は,専門職(エンジニア)としてプラズマ解析ソフトウェアの開発をはじめとして, 解析コンサルティング業務や国内外のユーザー向けの技術サポート・トレーニングなどを担当.

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