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第3回:保全カレンダーの有効性
メンテナンス現場で、長期計画、年度計画作成ツールとして広く用いられているツールに、保全カレンダーがあります。本メルマガでは、以下の観点から、この保全カレンダーについて考察します。
保全カレンダーを『メンテナンス業務全体を把握(可視化)し、評価・思考するためのツール』として捉える場合、以下の機能が必要だと考えられます。
しかし、実際の状況は、以下のような複数の問題を抱えています。
保全カレンダーの例を下図に示します。
図1 保全カレンダーの例
メンテナンス業務全体の評価・思考を支援するためのツールである保全カレンダーから何が見えるのでしょうか。
保全カレンダーは、長期計画を年度や月度計画に展開するためのツールです。設備のメンテナンス計画は、まず長期の運用(生産)計画を作成し、単年度の計画は、長期計画に基づいて作成する必要があります。
保全カレンダーには概ね次の内容が表示されます。
保全カレンダーに列挙された保全作業は、単に作業を山積みしているわけではありません。背景にある、以下のような情報が見えてきます。
各作業は、根拠に基づいて、内容や周期を決定しています。更に計画や実績を時系列で並べることにより、以下の状況を視覚的に把握することができます。
作業の内容や方式が決まれば、おおよその費用が判ります。保全カレンダーに費用を併記することで、費用も含めた長期計画の立案が作成できます。単年度計画をメンテナンスの長期計画から展開する過程では、予算の検討が必須であり、保全根拠を背景にした保全カレンダーは、有効なツールとなります。
保全根拠に基づく作業を予算という制約条件の中で計画することを考えると、保全カレンダーに作業のみならず、おおよその費用、保全根拠、作業の主査選択のために設備重要度(設備ランク)や作業優先度等を併記し、作業実施有無と予算の関係を試算(予算シミュレーション)できる機能の存在が有効と思われます。
以下に費用と根拠を併記した例を示します。
保全カレンダーの計画に併記して実績(またはマーク)を記載することで、計画に対するメンテナンス状況を把握することができます。更に計画外で発生した作業(不具合や不良)に関する処置状況を保全カレンダーに重ね合わせて表示することによりメンテナンス状況の現実が把握できる様になります。以下に故障対応を重ね合わせた例を示します。
リストアップされた作業を設備毎にまとめ、設備のライフサイクルを考慮することで、LCC[1]の把握が可能となります。保全カレンダーを利用することで、設備のLCCを直感的に捉えることが可能となります。
以上のことから、保全カレンダーは計画と実績を管理するためのツールとしてだけでなく、メンテナンス業務全体を可視化し、評価・思考するためのツールであると言えます。
日本の組織の様にチームで業務を実施する場合、計画作成者と実施者が同一部門に存在することが多く、この場合、保全カレンダーの様に全体を見渡して、計画を調整しながら作業を進める方式が有効となります。しかし、海外の組織の様に、役割が明確に区分けされている場合(例えばプランナーと作業員が別れている)は、全体を見渡すよりも、作業の優先順位、作業員のアサイン、担当者毎の作業の明確化(インボックス)、実施状況(ステータス)の管理、承認に係る機能が重要になります。
保全カレンダーは、プロジェクト管理のためのガントチャートと異なり、あいまいな情報を時系列で表示し、計画策定者の思考のためのツールとして機能することが求められます。その為システム定義が困難であり、ソフトウェアベンダーの立場からは、汎用的なツールを提供することが困難です。
例えば、『予防保全と事後保全を同一保全カレンダー上で表示するためには、どうすれば良いか』や『大量の電気・計装のメンテナンス計画中に装置のメンテナンス計画が埋没しないためにはどうすればよいか』等。
弊社が考える保全カレンダーに必要な機能について以下にまとめます。
今回のメールマガジンでは、保全カレンダーに着目し、システムとして構築する場合、必要な機能を検討しました。保全カレンダーは、計画策定を行うためのツールであると同時に、保全管理システムと連携することにより、メンテナンスの状況を把握するための可視化ツールとなり、メンテナンス業務におけるPDCAの結果を直感的に把握できます。
また、計画作成者の思考を支援するツールでもあるため、操作性の良し悪しは、思考の進展に影響を与えます。以上を考え合わせ、Excel版保全カレンダーにするのか、システム化するのか、または、システム化+Excelで対応するかを検討する必要があります。
[1] ライフサイクルコスト(Life cycle cost)とは、製品や構造物などの費用を、調達・製造〜使用〜廃棄の段階をトータルして考えたもの。訳語として生涯費用ともよばれ、英語の頭文字からLCCと略す。
保全管理システムを選定・導入するにあたり検討すべきガイドラインについて、毎回、テーマを設けて解説します。
前半では近年における各種保全管理システムの現状と動向、 後半では実際の業務にあたっての管理方法との関係に焦点を当てて執筆していく予定です。
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