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第3回:保全カレンダーの有効性

第3回:保全カレンダーの有効性

保全現場の実情と問題点を検証し、保全カレンダーの機能紹介を織り交ぜながら、 必要性、有効性について検証します。
2008-10-01

メンテナンス現場で、長期計画、年度計画作成ツールとして広く用いられているツールに、保全カレンダーがあります。本メルマガでは、以下の観点から、この保全カレンダーについて考察します。

メンテナンス業務の問題点

保全カレンダーを『メンテナンス業務全体を把握(可視化)し、評価・思考するためのツール』として捉える場合、以下の機能が必要だと考えられます。

しかし、実際の状況は、以下のような複数の問題を抱えています。

可視性

保全カレンダーの例を下図に示します。


図1 保全カレンダーの例

メンテナンス業務全体の評価・思考を支援するためのツールである保全カレンダーから何が見えるのでしょうか。

保全カレンダーは、長期計画を年度や月度計画に展開するためのツールです。設備のメンテナンス計画は、まず長期の運用(生産)計画を作成し、単年度の計画は、長期計画に基づいて作成する必要があります。

保全カレンダーには概ね次の内容が表示されます。

  1. 保全作業一覧
  2. 時系列で示された計画または実績

保全カレンダーに列挙された保全作業は、単に作業を山積みしているわけではありません。背景にある、以下のような情報が見えてきます。

各作業は、根拠に基づいて、内容や周期を決定しています。更に計画や実績を時系列で並べることにより、以下の状況を視覚的に把握することができます。

  1. 長期計画に対する実績
  2. 月度の予定と実績(年度表示形式の保全カレンダーを併用することで把握)
  3. 作業効率(同一設備や装置に着目すると、時期的に近くに存在する作業)
  4. 点検・検査から派生した作業(フォローアップ作業)
  5. 月度単位での予定

作業の内容や方式が決まれば、おおよその費用が判ります。保全カレンダーに費用を併記することで、費用も含めた長期計画の立案が作成できます。単年度計画をメンテナンスの長期計画から展開する過程では、予算の検討が必須であり、保全根拠を背景にした保全カレンダーは、有効なツールとなります。

保全根拠に基づく作業を予算という制約条件の中で計画することを考えると、保全カレンダーに作業のみならず、おおよその費用、保全根拠、作業の主査選択のために設備重要度(設備ランク)や作業優先度等を併記し、作業実施有無と予算の関係を試算(予算シミュレーション)できる機能の存在が有効と思われます。

以下に費用と根拠を併記した例を示します。

保全カレンダーの計画に併記して実績(またはマーク)を記載することで、計画に対するメンテナンス状況を把握することができます。更に計画外で発生した作業(不具合や不良)に関する処置状況を保全カレンダーに重ね合わせて表示することによりメンテナンス状況の現実が把握できる様になります。以下に故障対応を重ね合わせた例を示します。

リストアップされた作業を設備毎にまとめ、設備のライフサイクルを考慮することで、LCC[1]の把握が可能となります。保全カレンダーを利用することで、設備のLCCを直感的に捉えることが可能となります。

以上のことから、保全カレンダーは計画と実績を管理するためのツールとしてだけでなく、メンテナンス業務全体を可視化し、評価・思考するためのツールであると言えます。

日本の組織の様にチームで業務を実施する場合、計画作成者と実施者が同一部門に存在することが多く、この場合、保全カレンダーの様に全体を見渡して、計画を調整しながら作業を進める方式が有効となります。しかし、海外の組織の様に、役割が明確に区分けされている場合(例えばプランナーと作業員が別れている)は、全体を見渡すよりも、作業の優先順位、作業員のアサイン、担当者毎の作業の明確化(インボックス)、実施状況(ステータス)の管理、承認に係る機能が重要になります。

保全カレンダーに求められる機能

保全カレンダーは、プロジェクト管理のためのガントチャートと異なり、あいまいな情報を時系列で表示し、計画策定者の思考のためのツールとして機能することが求められます。その為システム定義が困難であり、ソフトウェアベンダーの立場からは、汎用的なツールを提供することが困難です。

例えば、『予防保全と事後保全を同一保全カレンダー上で表示するためには、どうすれば良いか』や『大量の電気・計装のメンテナンス計画中に装置のメンテナンス計画が埋没しないためにはどうすればよいか』等。

弊社が考える保全カレンダーに必要な機能について以下にまとめます。

保全管理システムと連携しているか。
情報の一元管理の観点から、最も重要な評価ポイントとなります。保全管理システムと連携することにより、計画に対する実績の確認が容易になります。また、保全カレンダーによる管理のために改めて情報を収集する必要がなく、作業者の報告がそのまま、保全カレンダー上に展開されます。保全カレンダー上からは、保全管理システムが管理している情報を簡単に参照できる必要があります。
長期計画から年度計画へ展開できるか。情報源は同一か。
情報の一元管理、保全カレンダーの本来の目的である『長期計画を年度計画へ展開したい』という希望を実現できることで使い勝手、計画策定者への負担が劇的に変わります。
予算の試算(予算シミュレーション)が可能か。
年度計画は、企業の長期計画の配下で実施されるべきです。企業の長期計画を実現すべく設備のメンテナンス長期計画を策定し、ここから年度計画へ展開されます。年度計画への展開の局面では、過去のメンテナンスの実績を参照しながら、予算統制配下で計画を作成します。場合によっては、メンテナンス計画の一部を来年度にまわす、中止する等の調整が必要になります。この様な検討を行う再、保全カレンダー形式のスケジューラが最も威力を発揮します。ここに計画の延期や中止をシミュレートする機能が加わることにより、計画作成者の負担が劇的に変化します。 また、メンテナンス・サービスを顧客に提供している企業や、プロパティ・マネージメントを実施している企業にとっては、顧客への提案ツールとして機能します。
表示項目の変更が直観的か。利用者毎に切り替えられるか。
立場が変われば、必要な情報が変わります。同じ保全カレンダーを用いていても、計画作成者と作業実施者では、参照するものが異なります。メンテナンス部門と顧客へメンテナンスを提案する営業部門でも表示する情報が変わります。だれが、参照しているかにより、表示する情報が変更できる必要があります。しかも、参照している情報は、一元管理されている必要があります。
Excelへの情報出力が可能か。
どれだけ汎用的な機能を用意してもニーズに答えられない場合が発生します。この場合、たよりになるのがExcelです。保全カレンダーの様な思考支援ツールでEUC(End User Computing)を如何に簡単に提供できるかは、システムの使い勝手を大きく左右します。また、年度計画を出力し、管理帳票として利用することが可能となります。
スケジュール調整機能
保全カレンダーを利用することにより、設備に関する作業全般、同時期に実施される作業が直感的に把握できる様になります。同時期に実施する作業 や 保全カレンダー上にプロットしておいたフォローアップ作業をまとめて実施したいというニーズは、必ず発生します。保全カレンダー上(または連携した保全管理システム上)でスケジュールの調整(同時期にまとめる)機能が必要になります。
計画外作業(事後保全)の重ね合わせ表示
保全カレンダーを保全管理システムと連携して用いる場合、計画外の作業を表示することで、メンテナンス業務の実態把握やスケジュール調整が可能となります。作業依頼から派生した作業や改造作業を保全カレンダー上にプロットできれば、スケジュール調整機能に利用することができます。
費用(予定/予算、実績コスト)の扱いは可能か。
保全カレンダーは、作業計画策定ツールです。また、予定に対する実績管理を行うためのツールでもあります。ここで、費用を扱えるかどうかは、使い勝手に大きく左右します。予定コストや実績コストをどの様に扱うか、確認が必要です。
保全管理システム連携
保全カレンダーが持つ情報に対して、保全カレンダーを入り口としてアクセスしたい。保全カレンダーを設備管理システムへのポータル機能(入り口)とすることで、全体を見ながら詳細の確認へ移行することが可能です。

まとめ

今回のメールマガジンでは、保全カレンダーに着目し、システムとして構築する場合、必要な機能を検討しました。保全カレンダーは、計画策定を行うためのツールであると同時に、保全管理システムと連携することにより、メンテナンスの状況を把握するための可視化ツールとなり、メンテナンス業務におけるPDCAの結果を直感的に把握できます。

また、計画作成者の思考を支援するツールでもあるため、操作性の良し悪しは、思考の進展に影響を与えます。以上を考え合わせ、Excel版保全カレンダーにするのか、システム化するのか、または、システム化+Excelで対応するかを検討する必要があります。

備考

[1] ライフサイクルコスト(Life cycle cost)とは、製品や構造物などの費用を、調達・製造〜使用〜廃棄の段階をトータルして考えたもの。訳語として生涯費用ともよばれ、英語の頭文字からLCCと略す。