ダスト
VizGrainで、ごみ掃除
半導体の製造者は、空気で運ばれて空挺部隊のように舞い降りる微粒子との闘いで、研究室や製造機器の汚染の厳しい脅威にさらされています。 気流、ミクロ濾過、空気のイオン化、気圧、湿度のコントロール、ポリマーの道具、待合室とエアシャワー、そして クリーンルーム一式は、 研究室の工程を外界から切り離すという名のもとに、製造者が考慮しなければならないことの一部でしかありません。 大規模な手順と高価な投資にもかかわらず、 汚染物質が全くない環境を作ることはほぼ不可能です。 汚染物質のうちもっとも一般的なものは、ダストとよばれる、固体の微視的で細かい粒子です。
夜空のオーロラ、彗星の尾、土星の輪。地球の上空の中間層や、天体物理学者を魅了する天体で見られるダストのプラズマとは異なり、 この地上の研究室内でのダストのプラズマは、 半導体産業ではいつもイライラの元になっています。 反応炉や製造装置にそれがあると、常にウェハーや重要部位の汚染の恐れがあります。
いつの日か未来には、 技術の革新か、あるいはクリーンルームが完全になることによって、 もしかすると、半導体製造設備内のダストのプラズマは存在しなくなるかもしれません。 しかしそれまでは、これらの環境の現実的なモデルを作るために、 シミュレーションで関連する物理のすべての面を考慮する必要があります。
粒子
半導体製造のためにダストを飛ばす
ダスト粒子は、 エッチングや堆積のために半導体製造業で使われる、プラズマプロセスの放電チャンバーの一般的な汚染物です。 これらの粒子は、数ナノメートルから数百マイクロメートルまでのサイズに渡り、 プラズマ内で比較的大きい負の電荷を蓄え、したがってプラズマ内で静電的にトラップされます。
大きな粒子は通常シースの端の近くに蓄積し、小さい粒子は、静電ポテンシャルがもっとも正になる、放電チャンバーの中心に蓄積します。
粒子の軌跡(a)ウエハーにバイアスがかかっているとき (b) ウエハーにバイアスが無いとき。 粒子のサイズは、 0.15 マイクロメートルから、0.5 マイクロメートルまでの幅があります。 (図の引用 🔗Kobayashi et al.)
半導体製造業では、プラズマ内での粒子の形成とダスト粒子の半導体のプロセス表面への影響は、工程全体の品質と歩留まりを決める因子です。 関連する物理(粒子の成長、帯電、プラズマ内での輸送)をすべて考慮する、 マクロ粒子の運動モデルを開発することは 現代の半導体プロセス反応装置のデザインに必要です。
結果として、ダストがあるプラズマをめぐる研究の適用例は、主として粒子の輸送とプラズマの分布に集中します。 これは、計測される気体の温度分布と熱拡散力の計算で粒子の挙動が表現できる、 プラズマエッチングとプラズマデポジション(堆積)のシステムの場合です。 熱拡散力は、プラズマの分布の調節と、ウェハーにわたっての気体の温度分布の調節によってコントロールできます。
つい最近まで、粒子のコントロールとプラズマ分布でのこれらのブレイクスルーは、高価で手間がかかる実験に頼っていました。 現在では、VizGrainのようなソフトウェアでの粒子シミュレーションが、 以下のような計算モデルを作るために必要な機能を含みながら、 これらの挙動の予測を可能にしました。
- マルチサブドメイン 複数の固体と気体の領域が同時に記述できる
- 複雑なトポロジーと細かい幾何学的な形を再現できる、非構造メッシュ
- 静電場と磁場をモデル化でき、電磁場ソルバーと連成して電磁波もモデル化できる
- ガス組成の一部を、古典流体ソルバーとプラズマソルバーを連成させた連続体として扱う
VizGrain
VizGrain: 粒子シミュレーションのための多用途計算ツール
VizGrainの特徴的な面は、多様なシステムでの粒子の力学を計算モデル化できることです。
- 希薄気体の力学
- 気体の放電プラズマ
- 巨視的粒子の力学(ダスト粒子、液滴、など)
VizGrainは、原子サイズの粒子も、有限の巨視的サイズの粒子も扱えます。 前者は、希薄気体の動力学と従来の非平衡プラズマをモデル化するために使い、 後者の巨視的粒子は、適用例のうちいくつかだけ挙げると、ダストがあるプラズマ、エアロゾル、そして液滴などです。 この後者の例では、プラズマ環境での、粒子の帯電の考慮も含まれます。 さらに、これらのモデルで、原子にも巨視的粒子にも作用できる、包括的な多種の抗力が扱えます。
VizGrainは、輸送(移動と衝突)を記述する支配方程式を解き、さらに粒子の指定した領域での生成と消滅も解きます。多数の粒子の種類を、原子サイズのものも、巨視的サイズのものも、扱うことができます。
容量結合プラズマ(Capacitively coupled plasma, CCP)反応器での、ダストを含むプラズマの動力学は、VizGlow(流体)とVizGrain(ダスト粒子)で生成されました。
電気的に中性な粒子種とラジカル、そして電子や正イオン、負イオンのような荷電粒子は、原子の粒子タイプで、 一様に考慮することができます。 しかし、巨視的粒子のタイプは、分子のクラスターや、より大きいミクロンからミリメートルまでのスケールのダスト粒子を含みます。
これらすべての粒子は、質量、電荷、そして大きさを持ちます。 原子の質量は変化しませんが、巨視的粒子の質量は支配法則に従って変化できます。 同様に、原子タイプの粒子の電荷は固定していますが、 巨視的粒子の電荷は帯電過程によって変化します。
VizGrainでは、集団の中の全ての粒子は、粒子タイプで分類されます。 あるタイプの粒子すべては、それぞれ質量、電荷、そして大きさ(直径あるいは断面積)の特性値を持ちます。 オブジェクト指向プログラミングの原則を大規模に用いており、 実装はモジュール化されていて、必要な時には特性値のリストを拡張できます。
VizGrainは、複雑な形状を扱えるので、現実的な問題を表現する柔軟性があります。 計算用のセルは、2次元では三角形と四角形、そして4面体、6面体、プリズム型とピラミッド型を扱うことができ、 これらのセルが混合したメッシュを扱うことができます。
メッシュは、専門家が一般に使うような多様なフォーマットで準備されたものを、VizGrainに読み込めます。 メッシュ全体で、単一セルに存在する最大の粒子数を 指定した時間間隔ごとに出力することができ、 品質が低い解(特にPIC法のシミュレーションでの静電ポテンシャルについて)の予兆になるようなセルを警告します。 なお、純粋な粒子法のシミュレーション結果の正確さは通常はメッシュの品質に影響せず、 それはVizGrainのシミュレーションでも確かめられています。
論文
関連論文、リンク
- Levko, Dmitry, et al. “VizGrain: a new computational tool for particle simulations of reactive plasma discharges and rarefied flow physics.” Plasma Sources Science and Technology 30.5 (2021): 055012.
- Kobayashi, Hiroyuki, et al. “Investigation of particle reduction and its transport mechanism in UHF-ECR dielectric etching system.” Thin Solid Films 516.11 (2008): 3469-3473.
- Merlino, Robert. “Dusty plasmas: from Saturn’s rings to semiconductor processing devices.” Advances in Physics: X 6.1 (2021): 1873859.
- Merlino, Robert L., and John A. Goree. “Dusty plasmas in the laboratory, industry, and space.” PHYSICS TODAY. 57.7 (2004): 32-39.