リレー
電気自動車のリレー内部のアーク放電。どうやって鎮めるか?
将来の交通手段は、電気的になっていくようです。 国際エネルギー機関(International Energy Agency IEA)の 🔗電気自動車に関する最新のレポート は、世界の車の売り上げが16%減少するにも関わらず、 電気自動車(EV)の需要が40%増加することを強調しています。 電気化された乗り物へと移行することで、 乗り物のデザインの変化も進みます。 つまり、機械部品が、電子化された部品へと置き換わっていきます。 リレーは、そのような電子化されたシステムで、重要な役割を果たします。
リレーは、電気的に操作されるスイッチです。小電力の信号回路で、大電力の回路を操作するために使われます。 もっとも一般的なリレーは、 電気機械的なリレーで、 信号の端子、そして電気供給と負荷とに繋がる端子があります。 信号を受け取ると、電磁的に操作される接触子が、電力供給と負荷の端子の間の隙間を開閉します。 他に、固体素子のリレーもありますが、この伝統的な電気機械的なリレーが市場を占めています。 これは、適用電圧と電流範囲の広さ、そして、設計のシンプルさによる製造コストの低さのためです。 しかし、電気機械的なリレーの寿命に影響する大きな問題があります。 アーク放電です。
アーク放電の、主な望まれない作用は、回路での突然の大電流です。 これが、負荷デバイスを切断する、回路遮断器への信号を遅らせて、過電流による不具合を起こします。 さらに、アークは表面温度を上昇させて、端子と接触子を摩耗させ、 あるいはリレーを端子までも溶かします。 この両方の望まれない現象が、信頼性と安全性に大きな問題をもたらします。 アークの強さと持続時間は、 リレーの接触子の摩耗と、リレーの寿命とにとどまらず、 電気自動車の安全に大きな影響を与えます。
従って、リレーでのアークの形成の研究と、アークの形成を抑制するデザインの探求は重要です。 この記事では、 この不具合がどのように起こるか、そして改善していくために何ができるかを掘り下げていきます。
アーク
アーク … 最もエネルギッシュなプラズマ放電
十分に強い電場にさらされた気体は、イオン化して、その気体は導電性になります。 これを、放電と呼びます。 放電の特性は、図(en.wikipedia.org/wiki/Electric_discharge より)に示すように、電圧と電流に依存します。 この記事で扱うような、大電流を運ぶ放電は、アーク放電に分類されます。 アークはそれ自体で持続します。つまり、放電を維持するために、外部のイオン源を必要としません。 内部の電子と気体のプロセスが、アークの構造を維持します。
ツール
VizSpark、アークプラズマのシミュレーションに最適なツール
アーク放電の物理はとても複雑です。環境の気圧、温度、電極の形状、気体の組成、電磁場、外部回路のパラメーターと 固体表面の特性は、すべて動的に、アークの形成と消弧に影響します。 リレーの工業的な設計は、これらの互いに強く結合した現象すべてを考慮する必要があります。
堅牢で正確な熱プラズマシミュレーター 🔗VizSparkが開発されました。 VizSparkは、反応性プラズマの力学、流体力学、 時間変化する電磁場、輻射、表面の溶融、回路の動作、そして境界の連続的な変形を統合して扱うことができます。 VizSparkでは、複雑な3次元の工業的な構造も扱えます。 VizSparkを使うことで、忠実にアークを理解し、電気自動車のリレーのデザインと安全性を最適化することが、 効率的に行えます。
計算
電気自動車のリレーの計算モデルと結果
この記事で扱うリレーの形状は、固定のアノード電極(左側の端子)、固定の接地電極(右側の端子)、そして、 回路を遮断するために離れていく、動く接触子でできています。 この領域とつながっている回路は、図にあるように、220ボルトの直流電源で、負荷抵抗を通して給電されます。
リレー内部の気体は水素で、圧力 1 bar と温度 300 K に維持されています。 外部磁場 1 テスラ が、Z方向(この画面に向かう方向)にかかっています。VizSparkは、下図に示すように、電極間のアークの絶縁破壊を正確にとらえています。 まず、約 35 A の電流がアークを通って流れます。 アークは、外部磁場とアークとの相互作用で生み出されるローレンツ力によって外側に延ばされます。 アークが伸びると、アーク全体の電気抵抗は増加します。 これによって、電流は減少し、ジュール熱の現象によって温度が下がるので、アークも冷やされます。 部分的に消えたアークは、最終的に消えるまえに、400 μsあたりで何度か再点火します。リストライクと呼ばれる現象です。 VizSparkは、アークの伸長と、リストライク中の新しい放電経路の形成を正確にシミュレートします。 これは、出圧と電流両方の、ノコギリの刃のような波形に現れています。
接触子と端子電極との間隔が広くなると、リストライクが起こりにくい状況になり、 シミュレーションの終盤にはリストライクが少なくなります。 この間隔の電位差は 220 V まで上がり、電流は 0 A に下がり、これは アークが完全に消えて、リレーで回路が開いたことを示します。
分析
VizSparkによるトレードオフの分析
アークの消弧を早め、電気的な切断を速くするために、いろいろな手法があります。
- アークを外部磁場の中で引き伸ばす
- 接触子の移動速度を上げる
- SF6のように、電子を吸収する気体を用いる
- 水素のように、熱伝導率が高い気体を用いる
- アークを、小さな消えやすい部分に分割するように、分割板(消弧グリッド、消弧板)を用いる
- 🔗スナバ回路(wikipedia)のように、 キャパシターと抵抗の直列の組み合わせがリレーと並列に接続される 外部回路を用いると、消弧のとき電圧がゆらぎはじめたときに、電流の急上昇を抑制します。
これらすべての設定が、VizSparkで忠実にシミュレーションできます。
ここに示した計算モデルは、電気自動車用の高電圧リレーの、消弧の振る舞いを研究するために必要な、 総合的なアークの物理を組み込んでいます。 このモデルは、適度な計算時間で、電気自動車のリレーの設計やパラメトリックスタディーに使うことができます。 ここから先は、実験データとの詳細な検証を行うべきでしょう。 その他の研究の方針としては、金属の蒸気を含めること、消弧板を含めること、また、摩耗による電極の変形があります。
論文
関連論文
- Karpatne, A., Breden, D., and Raja, L., “Simulation of Arc Quenching in Hermetically Sealed Electric Vehicle Relays,” SAE Int. J. Passeng. Cars ― Electron. Electr. Syst. 11(3):149-157, 2018, https://doi.org/10.4271/2018-01-0765.
- N. Ben Jemaa, L. Doublet, L. Morin and D. Jeannot, “Break arc study for the new electrical level of 42 V in automotive applications,” Proceedings of the Forth-Seventh IEEE Holm Conference on Electrical Contacts (IEEE Cat. No.01CH37192), 2001, pp. 50-55, https://www.doi.org/10.1109/HOLM.2001.953189.
- R. Ma et al., “Investigation on Arc Behavior During Arc Motion in Air DC Circuit Breaker,” in IEEE Transactions on Plasma Science, vol. 41, no. 9, pp. 2551-2560, Sept. 2013, https://www.doi.org/10.1109/TPS.2013.2273832.
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